「高円宮記念日韓交流基金」顕彰式に寄せて
〜 日韓『草の根交流』の拡大願う 〜 高円宮妃久子殿下に伺う 

東洋経済日報より 

 ――「一般財団法人 高円宮記念日韓交流基金」の設置経緯および目的をお聞かせください。
 以前、羅鍾一・元駐日韓国大使から、宮様のお名前を冠にした財団をつくって教育、文化、スポーツなどの分野における草の根交流を顕彰することは日韓関係を構築していくうえで良い役割を果たすのではないか、とご発案をいただきました。
 実際どのような仕組みをつくるのかについて、羅元大使が「愛・地球博」の時に政府のコミッショナーを務められた渡辺泰造元大使にお願いしてはいかがかということになりました。渡辺元大使は非常に韓国のことも理解されています。いろいろな方のアドバイスもいただきながら、韓国側から6社、日本サイドが7社に参加していただくこととなりました。
 東レ社長の榊原さんが2002年のサッカーワールドカップ日韓共催の時に、私どもと同じようにソウルでの開会式を観覧され、その時の宮様の御姿や両国の旗が一緒になって入場してきた時の感動、感激を共有して下さっており、とても積極的に動いてくださいました。いろいろな場面でリーダーシップをとってくださったことに心より感謝しております。
 今回初めての顕彰式を行うことになりましたが、財団の事業について、皇族として戦後初めて韓国を公式訪問された宮様の思いやワールドカップの前後に東洋経済日報のインタビューでも述べていらしたご自分の韓国に対してのお気持ちを反映していく組織ができて、そこでの事業が着実に回を重ねていくことが大事だと思います。
 ――財団の構想から実現まで長い時間がかかったとも言えますが。
 おいそがしい中、企業の方たちが、時間をかけて一番いい形を模索してくださいました。ワーキンググループをつくって、頻繁にミーティングを重ねてこられました。
 この財団の一つの特徴は、この財団の設立の意義に賛同してくださった企業による民間レベルの組織で、助成金もどちらの国からも頂いておりません。顕彰事業も、できる限り草の根の地道な活動を探し出して、意義あることとして励ましていきたいと考えています。
 ――宮様の冠がついていますが、民間ベースの財団となるのでしょうか。
 宮様のお名前が付いていますが、民間ベースの財団です。これは政府のものではありません。「国」とは多くの人間から成り立つものであり、民間同士の有意義な交流を宮様のご遺志をついで推進する団体に宮様のお名前がついている事は、とても喜ばしいことです。国と国の交流は政府同士のものだけを意味するのではなく、人と人の交流がその根底にありますので、むしろ民間ベースの財団であるところが良いのかもしれません。
 ――高円宮という冠をつけて、韓国という特定の国を対象にした財団は初めてだと思いますが。
 はい、初めてです。
 ――今回の初の顕彰式では日韓の4団体が顕彰されます。選定ポイントをお聞かせください。
 今回が初めてですから、まず多くの候補が挙がってきたこと自体が嬉しかったです。どのような候補があるのかというレポートは全部読ませていただきました。選考委員の方々には、長時間いろいろ協議しながら顕彰者を選んでくださったと聞いています。お忙しい中、難しいお役目を引き受けてくださった素晴らしい選考委員の先生方には心より感謝しております。
 ――2002年の韓日サッカーワールドカップで、両殿下が皇族として初めて訪韓されてから7年。両国の友好親善に大きな役割を果たされてきましたが、どうお考えですか。
 こういうものは目に見えるものではないので、なかなか判断しにくいところはあると思いますが、少なくとも私どもが2002年に韓国に行って良かったと思います。あの時は、宮様がホテルの部屋で誰とも会わないで過ごしている時間がもったいないとのお考えで、外に出れば、皆様と何らかの形で交流が持てるのだから、そういう時間を大切にして外に出よう、外に出ようと随分おっしゃっていました。
 その時の宮様のお気持ちは、お会いした方には伝わっていると私は信じています。特に、釜山で魚市場の建物から出て来る時に、「また来てね」と言っていただいたのは、とても嬉しかったです。そういう気持ちでいらっしゃる方が他にもいらっしゃるとすれば、それはとても嬉しいことですし、今回この基金ができて、またその頃の思い出を皆様で振り返っていただければいいと思います。
 今後在日の方が果たす役割はますます大きくなっていくと思います。最近は通名ではなく本名を使われる方が増えたようですが、とても喜ばしいことですよね。次の世代には自然に仲良く友達として育ってもらいたいものです。
 ――今後、再び韓国を訪問される計画などはありますか。
 また何かの機会に伺いたいですね。実際に2002年以降、多くの方が頻繁に行き来していらっしゃいます。日帰りで訪れる方もいらっしゃるようですし、お仕事で年に何回も行き来されている方もずいぶんと存じ上げています。是非、いつか訪韓をまた実現できればと願っております。
 ――今年9月に「日韓交流おまつり」が東京とソウルで初めて同時開催されるなど、若者をはじめ両国民の交流の輪も広がっています。現在の日韓関係について、どのようにご覧になっていますか。
 頻繁に行き来する方が多くなったということも含め、自然体になってきたような気がいたします。人間の関係というのは、一つの家族の中でもそうですが、実際に会話をして、接触して、意見が合わなくて、喧嘩して、泣いて、ということを重ね、絆がどんどん強くなっていくものです。お互いにお行儀よくしているのも大事だし、親しい仲にも礼儀ありですが、それを踏まえたうえで一緒に過ごす機会をふやし、回を重ねて、一緒に何かを作り上げていく機会は多ければ多いほど良いと思います。そのようにして絆は強めていくものではないでしょうか。
 今は例えば、劇を一緒にやるとか、映画を一緒に作るとかいうような試みも多々ありますし、今回の交流おまつりのように一緒に何かを作り上げるといった、いろいろなレベルでの交流の蓄積が両国の関係を密にしていきます。
 あくまでも国というのは、個人と個人で作り上げられているものなので、個人同士の交流が多くなるほど両国間の関係は必ず良くなっていくと思います。常識的に考えれば、人間関係において国境とは関係ないはず。すごく気が合う韓国のお友達もいれば、難しい韓国のお友達もいて、逆に難しい日本のお友達も、すごく気が合う日本のお友達もいる、というのが普通でしょう。交流は人間関係を構築する上で大切ですから、回数はどんどん増やしていくことが大事だと思います。
 最近ではネットも普及していますから、若い世代はいろいろなコミュニケーションのやり方で関係を作っていけば良いと思います。問題点は必ずどんな関係でも出てきます。お隣同士なのですから、問題点は解決していくしかありません。ここで大事なのはお互いに対し敬意をもってその考えを尊重することと、その問題点をなんとしてでも良い方向に解決したい、という気持ちです。プラス思考で進めていけば、自ずと解決していくような気がいたします。
 ――この財団は、日韓交流促進の志半ばで終わった高円宮殿下のご遺志で発足したと聞いていますが、妃殿下の今後の抱負についてお聞かせください。
 財団ができて確実に結果を出しているものに宮様のお名前がついているということで、皆様からご覧になっても、宮様のご遺志を継いでいると考えていただけるのではないかと思います。それをまた一つのきっかけとして、今後も出来る限り両国間の交流には、私自身が関係できるところで自分に見合ったレベルを見極めながら進めていきたいと思っています。
 ――今後の課題として、どのような形で、この財団を育成、発展させていきたいとお考えでしょうか。
 最初にあまり派手に展開するよりは、着実に評価を得た上で育っていくことが大事だと考えています。広がりを持つことや、より多くの企業が関わってくださるのも大切なポイントだと思っていますが、この財団の存在そのものに大きな意味があるのではないでしょうか。日本でも韓国でも、そういう宮様がいらっしゃったんだと思われることが大事だと思うのですね。
 今後の方向性としては、しばらくは顕彰を中心に進めていき、助成はその後、もう少し時間が経ってから始めればいいことなのではないかと思っています。
 ――妃殿下はさまざまな団体の名誉総裁を務めていますが、この財団には特別の思い入れがおありではないでしょうか。
 この財団に関しては設立当初から関係しているということや、宮様が国際交流というものがいかに大切かを常におっしゃっていたことを思うと、確かに思い入れはございます。
――最後に本紙の読者をはじめ、両国国民にメッセージをお願いします。
 2002年のワールドカップに宮様と韓国を訪問して、宮様のお名前を冠にした日韓交流財団が設立されました。今回初めての顕彰式となりますが、これからも是非皆様には温かく見守っていただいて、今後の日韓関係のために皆で一緒に育てていく財団にしていきたいと思います。